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金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)/医薬保健研究域医学系免疫学の華山力成教授、山野友義准教授、大学院新学術創成研究科ナノ生命科学専攻/ナノ精密医学?理工学卓越大学院プログラム(WISE)履修者の今井翔太(博士後期課程 3 年)らの研究グループは、細胞から分泌される微小な膜小胞「エクソソーム/細胞外小胞(Extracellular Vesicles: EVs)」を人工的に改変し、疾患関連抗原に特異的な制御性 T 細胞(Regulatory T cell: Treg)(※1)を誘導する「抗原提示エクソソーム(Antigen-Presenting EV: AP-EV-Treg)」の開発に成功しました。
本研究グループはこれまでに、がん免疫領域で改変エクソソームを開発し、キラーT 細胞やヘルパーT 細胞を抗原特異的に活性化する方法を報告してきました。今回は、その発展形として、同じ改変エクソソーム技術を基盤に、免疫制御分子の組み合わせを変えることによって、免疫「活性化」から免疫「抑制」へと、相反する免疫反応を精密に制御する技術を確立しました。
AP-EV-Treg は、膜表面にペプチド–MHC クラス II 複合体(pMHCII)と IL-2、TGF-β を同時に提示し、試験管内でナイーブ CD4?T 細胞からの抗原特異的 Treg 分化と増殖、および機能的な抑制活性を実証しました(図 1、2、3)。さらに、マウス体内では mTOR 阻害剤ラパマイシンとの併用により、抗原特異的 Treg の誘導が有意に増強されることを示しました(図 4)。
本成果は、自己免疫疾患(※2)やアレルギー疾患など、過剰な免疫反応の制御を必要とする疾患領域に対し、次世代免疫制御プラットフォームとしての応用を切り拓くものです。
本研究成果は、2025 年 12 月 18 日(日本時間)に、国際学術誌『Drug Delivery』に掲載されました。

図1. AP-EV-Tregは抗原特異的に制御性T細胞(Treg)を誘導する。

図2. AP-EV-Treg は抑制活性を有する抗原特異的Tregを誘導する。

図3. AP-EV-Treg は多発性硬化症に関連する抗原特異的Tregを誘導する。

図4. AP-EV-Treg とラパマイシンの組み合わせは生体内で抗原特異的Tregを誘導する。
【用語解説】
※1:制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg)
Tregは、免疫反応が過剰にならないように抑制する「免疫のブレーキ役」を担うT細胞です。
Tregは、IL-10やTGF-βなどの抗炎症性サイトカインや、CTLA-4やPD-L1などの免疫抑制分子を用いて免疫細胞の活性化を抑えたり、他の免疫細胞が増殖するために必要なIL-2を調整したりすることで、多段階的に免疫を鎮静化します。Tregが不足したりうまく働かなくなったりすると、自己免疫疾患が発症しやすくなることが分かっています。
※2:自己免疫疾患
免疫系は、体外から侵入したウイルスや細菌などの病原体を排除しつつ、自身の組織には攻撃を仕掛けないよう精密に調整されています。しかし、この「自己」と「非自己」の識別機構が破綻すると、自分自身の細胞や組織を誤って攻撃してしまうことがあります。こうした免疫の暴走は、多発性硬化症や関節リウマチなどの自己免疫疾患の原因につながり、患者数は全世界で数億人に上ると推計されています。
ジャーナル名:Drug Delivery